ジャンニ・スキッキのコイン

ジャンニ・スキッキのコイン

毎年恒例、松本のOMFに参加しております。

本年のオペラはプッチーニの《ジャンニ・スキッキ》。遺産相続を巡るドタバタ劇で、ソプラノのアリア「私のお父さん」は大変有名でもあります。

以前より、《ラ・ボエーム》でショナールが投げるコインだとか、《フィガロの結婚》でスザンナが持ってくるコインについて調べてきましたが、第3弾として、このオペラに出てくるコインについても解説しようと思います。

オペラの舞台は1299年のフィレンツェとなっています。
この当時の政体はフィレンツェ共和国ですが、1252年に発行が開始されたのが、“fiorino”と呼ばれる金貨です。

約3.5gの24金で鋳造されたこの金貨は、それからヨーロッパにおけるスタンダードな通貨の一つとなりました。現在(2024.08)のレートが金1g≒13,000円なので、約45,500円ということになります。

終盤、ブオーゾに扮したジャンニ・スキッキが遺書を口述筆記させるところで、「自身の葬式には2フィオリーニ(複数形)以上使うな」と言います。葬式は9万円で、というのはずいぶんと質素ですね。

その直後で、「修道院に5リレ寄付」と出てきます。リレはリラ(lira)の複数形ですが、1フィオリーニ=1リラなので、教会への寄付は25万円弱です。公証人から少なすぎませんか?とツッコミを入れられています。

さて、話を遡ると、ジャンニ・スキッキを呼びに子どもがお使いに出される時のお駄賃が「2ポポリーニ」とあります。ポポリーニもポポリーノ(popolino)の複数形で、こちらは1296年から発行開始の銀貨です。

約1.8gの23銀で、価値としては1/20フィオリーニという記述が辞典系のサイトに多い一方で、古銭専門のサイトでは大抵1/10フィオリーニという事になっています。後者を取ると、1枚4,550円の銀貨になるので、お使いのお駄賃にしてはずいぶんと太っ腹ですね。

最後にもう1種類、ジャンニ・スキッキの後口上で、「ブオーゾのクワットリーニがこれ以上に役立ち得たでしょうか?」と述べる時のクワットリーニは、クワットリーノ(quattorino)の複数形です。

約0.8gで、ビロン(billon)と呼ばれる銀の合金で出来ており、価値は1/60フィオリーニ、要は小銭です。幕切れで自分の娘が恋人と結ばれる姿をバックにして述懐する台詞としては、いくら大金を手にしても、人の幸せに比べればはした金に過ぎない、ということを言おうとしての表現でしょうか。