ショナールのコイン

ショナールのコイン

プッチーニ《ラ・ボエーム》1幕で、音楽家のショナールが帰ってくるシーンをご覧下さい:

さて、ここで彼が意気揚々とぶちまける「銀貨」ですが、実際の現場ではそれっぽい大きさのおもちゃのコインだの、どこか東欧の古いコインだのごたまぜを小道具として使っていることが多いのですが、ふと思い立って、入手してしまいました。

本物を:

《ラ・ボエーム》原作の設定は7月王政期(1830-48)なので、君主はルイ・フィリップ1世です。

こちら、1838年の5フラン銀貨、通称「エキュ銀貨」と呼ばれるもので、ショナールが投げているのは恐らくこれだろうと推定されます。

この当時のフランスの通貨制度は実にシンプルで:

40/20フラン金貨
5/2/1/0.5/0.25フラン銀貨

の7種類のコインがあり、1フラン銀貨は5グラムで、90%が銀です。

この5フラン銀貨は当然25グラムなければいけないのですが、実際には24.60グラムしかありません(1枚目写真左上参照)。これはどういうことかというと:

側面の一部が削り取られているのがわかるでしょうか。当時の金貨銀貨は言ってみれば地金なので、こうしてちょっとずつ削り取っては集めて売る輩が絶えなかったそうです。

で、この銀貨が当時どのくらいの価値を持ったのかということですが、ネットを検索すると、次の論文がヒットします:

バルザックの時代の1フラン – 佐野栄一

貨幣価値の比較は、何を基準にするか(平均賃金?食料品の価格?etc.)によって大きく差が出てしまうものではありますが、ざっくりと1フラン≒1,000~2,000円くらいで勘定すればそう遠くないということのようです。すると、このコイン一枚あたり5,000円~10,000円。それを皆で山分けできるくらいジャラジャラと持ち帰ってきたのですから、少なめに見積もっても20~30枚はあったということでしょう。オウムにパセリを食わせるだけでずいぶんボロ儲けしたものです。