パルティータ6番 BWV830 冒頭の解釈

パルティータ6番 BWV830 冒頭の解釈

バッハの《6つのパルティータ BWV825-830》は、チェンバリストのみならず、ピアニストも比較的演奏するレパートリーです。終曲の第6番BWV830は、長大なサラバンドや複雑なジーグが演奏者泣かせですが、その冒頭楽章は”Toccata”と銘打たれています。

(演奏がグレン・グールドなのはご愛嬌として)、冒頭の2小節、及びそれに類した部分をどう演奏するかは、YouTubeで様々な演奏を聴き比べてみても千差万別。特に、最初の駆け上がるようなアルペジオの音型をどの位の速度で弾くのかに、奏者のロマンチスト度が色濃く反映される気が致します。

しかし、良く考えてみて下さい。トッカータというのは、そもそもが即興演奏的なニュアンスを多分に含むジャンル名です。初期のBWV910-916や、オルガン曲と比較してみても、こういう細かい音符をさも曰く有りげに弾く必要性は全く感じません。

じゃあ、これは何なのか。モーツァルトのアリアを分析してみた時と同様、「原型」を探ってみましょう。

それぞれ、可能な限り装飾を剥ぎ取ってみた「原型」と、それに装飾記号をつけることで、記譜通り(に近い)状態を作ってみたものを並べています。冒頭は2小節は、ただ4つの和音によるカデンツが並んでいるだけです。

bb.25-26などはついつい音符が増えるところで「どっこいしょ」してしまい、4/4拍子のようになってしまいがちですが、これもフランス風序曲のカデンツなどによくあるイディオムでしかなく、いちいち減速する必要はありません。

7連符の走句による部分、そして中間部のフガート含めて、多少のたわみは許容するにせよ、一定のパルス感(テンポ感ではないのがミソ)を感じ続けて、あっさりと演奏するのがこの楽章の肝ではないでしょうか。メインはあくまで2曲目からの舞曲群なのですから。