【更新】《兵士の告白》動画
【2024.01更新】
下記リサイタルでの演奏と、その前の作曲者挨拶の動画がアップされました。
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【2023.06更新】
本年9月に秋本さんのCD発売記念リサイタル@紀尾井ホールで取り上げていただけることになりました(チラシに記載はありませんが、twitterで言及有り)。お聴き逃しなく!
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先日告知しました、秋本悠希さんのリサイタルで初演していただいた《兵士の告白》、ホールリハでの動画を公開して頂きました:
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2022年12月15日(世界初演)
川口リリア・音楽ホール
歌曲集「兵士の告白」(2020.12.13 作曲)
詩:谷川俊太郎 作曲:根本卓也
1.大小
2.死
3.誰が…
4.兵士の告白
5.くり返す
メゾソプラノ:秋本悠希 ピアノ:菊地沙織
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《兵士の告白》について
2020年の12月にこの組曲は生まれました。
私は普段オペラの現場で働いているのですが、この年は3月頃から仕事らしい仕事がことごとくキャンセルになり、運転免許を取りに教習所に通ったり、映画やドラマを夜な夜な観ながら夏頃まで過ごしました。そんな中、第2次世界大戦やその前後を題材にした作品に多く触れ、戦争について想いを馳せることが増えました。
ここに収められた5つの詩「大小」「死」「誰が……」「兵士の告白」「くり返す」のうち、前半3つは1964年に『落首九十九』に収められています。谷川は1962-63年にかけて週刊朝日の〈焦点〉という欄に時事的な詩を書くスペースを持っており、そこで発表されたものをまとめたのがこの詩集です。残りの2つも、68年に別の本の中で「その他の落首」として発表されており、基本的には同種の作品と言えるでしょう。
1962年と言えばキューバ危機です。そして、64年にはベトナム戦争が本格化した時期です。この頃の知識人の例に漏れず、彼は60年安保に反対し、思想的には明確な左翼でした。今でこそ好好爺然としていますが、恐らく若き日の彼は似ても似つかぬ血気盛んな人だったのでしょう。この頃までの詩は、鋭く厳しい言葉遣いが目立ちます。
「大小」はショスタコーヴィチ風の「軍隊調パロディ」で仕立てました。「死」と「誰が……」は拍子を取り払い、日本語の抑揚に沿った語りと歌のペアになっています。全体の表題になっている「兵士の告白」は、戦場で人を殺すことの非人間性を全編カタカナ表記で表している詩ですが、四角四面なフーガの上で音程をわざと外しながら歌うという書法で、終曲の「くり返す」では、文字通りベースラインを反復するパッサカリアという古い形式の中で、前の楽章のテーマのリフレインや同音連打を「繰り返す」ことでそれぞれ詩のテーマ性に寄り添う試みをしています。
この作品は私にとっては自分の思想の表明ではありません。しかし、当初2021年初の予定だった初演が遅れたことで、こんなにも「現在」の写し鏡のような作品として発表することになったことは驚きでもありかつ、見えざる手の力が働いたように感じています。