コンセール集について

コンセール集について

さて、刻一刻と近づきつつあるジュゴンボーイズのクープラン・チクルス、お題の「コンセール集」とは何かについて、少しご紹介させて頂きます。

フランスの古楽には、実はミッシングリンクがあります。ルネサンス期の華麗なシャンソン、リュート音楽と宮廷歌曲(エール・ド・クール)が豊富に残されている一方で、ルイ14世治世、映画『王は踊る』で有名なリュリが君臨して以降のフランス・バロック音楽との間、17世紀前半は驚くほど楽譜が残っていません。

資料となるとリュート音楽のタブラチュア(5線譜ではない、いわゆる「タブ譜」)が主で、チェンバロ音楽に至ってはドイツ人コスモポリタンのフローベルガーの組曲や、幾つかの乏しい写本に伝わるルイ・クープランの作品を除けば1670年にシャンボニエールが出版した曲集が、初の印刷譜という有様。

これは、当時の作曲家(兼演奏家)が即興の名手でもあったこと、次々に消費される機会音楽(特にダンス)に、まだ当時高価な印刷出版という技術がそぐわないと考えられていただろうことなど、複合的な要因がかんでいるだろうと推測されます。

そんな中、フランソワ・クープラン(上述のルイの甥)は18世紀、ルイ14世治世も末期の1713年以降、4冊のチェンバロ曲集と、複数の室内楽を出版し始めます。この頃には銅版印刷による精密な楽譜の出版が本格化すると同時に、チェンバロを楽しむ(=楽譜を購入する)富裕層が増え、出版点数が増加します。

1722年に出版された《王宮のコンセール集》(第1-4番)は、鍵盤独奏曲と室内楽曲の両方として解釈できるような楽譜になっているのが特徴です。

こちらは、4月の第1回でも取り上げた第3番の冒頭、プレリュードです。

上4段の大譜表がチェンバロの楽譜のように書かれていますが、その下にハ音記号で書かれた”Contre partie(オブリガート声部)”があり、「お好みでヴィオールで演奏(…)ヴァイオリンやトラヴェルソ(バロックフルート)、オーボエその他でも演奏可」と但し書きが楽譜の前後に付けられています。

そもそも、このハ音記号は、楽譜の真ん中の第3線がピアノの中央のドにあたるため、ヴァイオリンやオーボエでは音域をはみ出してこのまま演奏などできません。どういう事でしょうか。次に挙げるのはこの曲集の序文です:

「これらの曲はチェンバロ(クラヴサン)のためだけではなく、ヴァイオリン、トラヴェルソ、オーボエ、ヴィオール、そしてファゴット(バソン)で演奏するにも適している。少人数の室内楽のために書かれたこれらの音楽を、ルイ14世はほとんど毎週日曜、御前演奏させた(…)私は自身でチェンバロを演奏した。(2-9行目、中略)」

ということで、たしかに先程の楽譜のソロパートに見えるところにも数字が付されており、通奏低音が入ることも想定されているようです。つまり、この楽譜は今風に言えば「コンデンススコア」に相当するようです。

クープランは自身のクラヴサン曲集の中でも、幾つかトラヴェルソなどの楽器で演奏することをほのめかす但し書きを残しており、当時の室内楽と呼ばれるものの編成の自由度の高さを今に伝えてくれます。ジュゴンボーイズでは、5本弦を張り、ヴァイオリンと同じ楽譜を1オクターヴ下で演奏できるチェロで、この曲集を皆さんにお届け致します。皆様のお越しをお待ちしております:

第2回(10/15):http://jugongboys-couperin2.peatix.com/
第3回(11/29):http://jugongboys-couperin3.peatix.com/